大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和36年(行)41号 判決

大阪市南区順慶町通二丁目三八番地

原告

鈴木合名会社

右代表者代表社員

鈴木恭治

右訴訟代理人弁護士

中村健太郎

右訴訟復代理人弁護士

中村健

同市南区高津七番丁二五番地

被告南税務署長

木田清蔵

右指定代理人

鎌田泰輝

竹見富夫

葛本幸男

根来正輝

奥野芳男

大川龍夫

内山勇雄

樋口正

右当事者間の昭和三六年(行)第四一号法人税等更正決定取消等請求事件について、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

甲  当事者の申出

一  原告

被告が原告の自昭和三四年一月一日至同年一二月三一日の事業年度の確定申告に基く所得金額、課税留保所得金額並に法人税額等について昭和三五年七月二二日した更正処分を取消す。

二  被告

被告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

乙  当事者の主張

(原告の請求原因)

(被告の答弁)

第一争点以外の事実

一、原告は肩蓄地に本店を置き、目的を「不動産の売買、保有、賃貸、利用並に管理、株式の所有、投資、所有ビル内の売店経営、保険代理業等」を営むこと。出資総額を一億円と定めた合名会社である

一、認める

二、原告は昭和三四年一月一日から同年十二月三一日に至る事業年度(以下本件事業年度という)の決算において所得金額を金一、五六二万七、四三七円、課税留保所得金額を零、所得税額の控除額を金二一一万六、五一〇円を算出して昭和三五年二月二九日被告に対し所得金額、法人税額の確定申告書を提出した。

二、認める

三、然るに被告は原告の右事業年度の所得金額を金一、三七一万七、九〇〇円、課税留保所得金額を金三五八万三、五〇〇円、法人税額を金三三五万四、六四〇円、法人税から控除できなかつた還付所得金額等を金二一一万六、五一〇、差引法人税額を金五四七万一、一五〇円、過少申告加算税を金二七万三、五五〇円と更正する更正処分(以下本件更正処分という)を昭和三五年七月二二日なし、右処分通知書は同月二五日に原告に到達した。

三、認める

四、そこで原告は同年八月二二日大阪国税局長に対し審査請求をした処、同局長は棄却の決定をし、右通知書は昭和三六年三月二九日原告に到達した。

四、認める。

五、しかし、法人税額の決定につき株式等の取得に要した負債の利子の控除に関しては後記第二に記載するとおり法人税法施行規則(昭和三三年政令第七〇号による改正後のもの)第一八条の五本文を適用して計算すべきであるのに、被告は右更正処分を同条但書に従つて計算した違法があるので、取消されるべきである。

五、争う。

第二本件の争点(株式等の取得に要した負債の利子の控除については、法人税法施行規則第一八条の五本文、但書のいずれを適用すべきか)

(原告の主張)

(被告の主張)

一、(一) 認める。

一、(一) 法人税法(昭和三三年法律第四〇号による改正後のもの以下法という。)第九条の六第一項は「内国法人(以下単に法人という)からうける利益の配当等の益金不算入」に関する規定であるが、この規定は法人は個人たる株主又は出資者の集団であつてその個人の営利追求の手段にすぎないという見地から法人に対する法人税と個人に対する所得税とが実質的に二重課税とならないよう配慮している趣旨のものである。即ち、法人の所得課税は最終的にはその構成員である個人の所得税の源泉課税の意義を有するという考え方に立つもので、従つてその構成員である個人に対しては配当所得の綜合課税は行なわれるが、その所得金額から法人税として源泉課税された部分の金額として配当所得の二〇パーセントを控除することとしている。(所得税法第一五条の七)。

ところが、法人と個人との中間に他の法人が介在する場合には、その中間に介在する法人の受けた利益の配当は当然に法人の益金となるから、すでに法人税課税済の所得に更に法人税が課税され、その利益の配当は究極には自然人たる個人に配当されることとなるので、、直接法人から個人に配当される場合に比して、中間の他の法人が介在する回数だけ重復して法人税を負担せしめる結果となるところから、かような不合理を排除するため、利益の配当を受けた法人が課税標準の申告に当つて一定の要件を充足するときは、当該利益配当は単なる通り抜けとみて所得の計算上は益金に算入しないことと定め、以て二重課税を防止しているのである。

(二) 認める。

(二) しかしながら、右益金不算入の計算に際し留意すべきものがある。即ち、法人が各事業年度において法人から株式等の配当を受けた場合において、その配当の元本たる株式または出資金を借入金によつて取得し、その借入金に対し利子を支払つている場合には、右配当金が全額益金不算入となるのではなく、当該負債の利子を控除した残額が益金不算入となるのである。ただし、配当金の全額を益金に算入しないこととし、更に負債の利子をも損金に算入することとすると、結局当該負債の利子だけが配当以外の他の利益に喰い込んで課税利益を減少させることとなり、負担の公平を欠くこととなるからである。

(三) 認める。

(三) 従前も同趣旨の規定はあつた。しかし、従前の規定のみでは、株式等の取得が自己資金でなされたか借入金でなされたか判然としないのが通常であり、とくに多額の株式を保有する場合や、多額の預金または借入金等を有している場合については実務上のその判断が殆んど不可能であり、そのため負債の利子を控除していない場合が多く見受けられ、折角の規定も有名無実となつて課税公平の立場からみれば不当に税負担が軽減されるといわれていたので、その計算方法を政令に委ね昭和三三年三月法人税法施行規則(以下規則という)第一八条の五(昭和三三年政令第七〇号追加)を新設し、それまで不明確であつた負債利子控除の計算方法を明確にし、厳格に取り扱うこととしたのである。

二、争う。

(一) 規則第一八条の五は「利益の配当等により受けた金額から控除する利子の額は、株式、出資の場合においては、株式取得の為に要した負債の利子を控除したものと定め、更に右負債の利子の額で株式取得の為に生じた負債であることの明らかでないものがある場合には、按分計算によること」を定めている。

即ち、利益配当金の基礎(元本)となるべき株式の取得が借入金によつて賄われ、これに対して利息が支払われたときは、

(イ) その株式の取得と借入金の関係が具体的に明瞭な場合には利益配当の額から当該株式の取得に要した借入金の利息を控除したものを法人の所得から除外し、

(ロ) その株式の取得と借入金との関係が具体的に明瞭でないものについては、按分計算によるべきである。

ということになる。

(二) 近代社会の会社の殆んどの全部については、自己資本(資本金)と他人資本(導入資本)との混合一体となつた営業資金によつて運営されているものであるが、だからといつて取得資産(株式等)と借入資金との関係を明らかにすることは不可能であり、不自然であると断定することはできない。近代会社の基礎は会社経理の発達と共に強化され、会社経理の組織化と共に会社の基盤は益々輩固さを加えるに至つたもので、被告の考え方は会社経理の正確性と妥当性に眼を覆うものがある。殊に原告の事業目的は株式の保有、投資及びビルの賃貸を主とするものであるから、この経理は他の事業会社に比して極めて簡素であり単純なものである。従つて原告の取得資産(株式)と借入金の関係は明瞭であり、又支払つた借入金の利息も、元本の使途別によって容易に類別することができるものである。例えば、昭和三四年度の総支払利息を元本たる借入金の使途別に大別すると、

(イ) 株式取得に要した借入金の利息 金二二七万六、一七〇円

(ロ) 関係会社に対する貸付に要した大阪製糖株式会社からの借入金利息 金一、一九二万三、三二一円

(ハ) ビルの建築資金の借入金利息 金六、九〇〇万〇、〇八六円 同(朝日生命保険相互会社)長期借入金利息 金二五八万九、三〇〇円

計金四、四一二万九、四一七円

而して右(イ)の株式取得に要した借入金は何れも金融機関が主体であつて、製造販売の営業活動を行なっていない原告の場合においては、日常資金的必要は全然なく、その経理関係は極めて明瞭である。

右(ロ)は所謂「通過勘定」であつてその経理的処理は、

(借方)

関係会社貸付金

(貸方)

大阪製糖(株)借入金

であつて、大阪製糖株式会社に対する支払利息は明瞭に区分整理されているものである。

右(ハ)のビル建築に要した借入金は建築過程において全額借入れたものであつて、竣工後一部は敷金、保証金等勘定科目の変更、又は借入金の肩替り等形式的変動はなく、しかも長期的性格を有する借入金であるから、資金使途は明確である。

従つて原告においては、株式取得に要した借入金利息も、その個々のものについて具体的に紐付計算が可能なものである。

もし、被告のような見解が許されるとすれば、規則第一八条の五との関係で法第九条の六に規定する「利益配当等の益金不算入の規定」は総ての法人について適用すべき余地が全然ないこととなる。

(三) 被告主張の解釈並びに通達に拠つた結果、法第九条の六は右のように空文化されるような事態を招来し、民間経済団体からの非難があつたが遂に政府においては民間経済団体の要望を容れて昭和三七年四月規定第一八条の五第一項但書を別紙一のとおり改正した。

これは右条項の改正前の規定の法意を変更したものではなく、国税当局の曲解を匡正させる政策的意図の下に同条項を具体的に規定し、異論の余地をなからしめたにすぎないもので、その法意は原告の主張と一致するものである。

二、規則第一八条の五の適用要件について。

(一) 利益の配当等より受けた金額から控除する負債の利子額が明らかである場合(同条本文。以下本文という)の計算方法の適用要件はつぎのとおりに解すべきである。

(1) 借入金の全部の使途が個別的且つ具体的に明らかであること。

受取配当からその元本たる株式等の取得に要した借入金の利子の額を控除する趣旨は、会社が支払う借入金の利子の額をそれぞれの元本たる借入金の使途に応じて配分し、受取配当の元本たる株式等の取得に要した借入金の利子の額は当該受取配当に負担させ、もつて租税負担の公平を図ろうとするものである。

右趣旨から明らかなとおり、右本文の規定により控除する借入金の利子の額を計算するにはまず株式等の取得に要した資金(現金・預金)が自己資本であるのか借入金(他人資本)であるのかについて明らかにされねばならない。

ところで会社が現に有する資金(現金・預金)は他の固定資産等の資産と同様にその会社の設立以降の自己資本と借入金とが混然一体となつて運用された結果の現実の姿に他ならない。即ち、それは会社の設立以降の自己資本と借入金とにより混然と構成されているものである。

従つて右資金を自己資本と借入金とに色分けするためには、株式等を取得する時に新たな借入金がなされたかどうかということのみによつてこれを判断することはできない。会社の設立まで遡つて自己資本と借入金について、或いは少なくともその一つである借入金について、その全部の使途が個別的且つ具体的に明らかにされ、それがどの様な資産に資産化されているのかが明らかにされたうえでここれを判断しなければならない。ただしかくして始めて右資金のうち幾許が自己資本或いは借入金からなるものであるのか判断しうるものであるからである。

(2) 株式等とその取得に要した借入金とはその取得(借入)から消滅(返済)まで終始個別的な対応関係にあることが明らかであること。

本文の規定は、当該事業年度において利益の配当を受ける所謂有配当の株式等についてのみ控除する借入金の利子の額を計算するものとしており、その計算は有配当の株式等を取得した時から右株式等の配当期間の末日までの期間において会社が支払う右株式等の取得に要した借入金の利子の合計額から前事業年度までに控除した利子の合計額を控除する方式、即ち、個別的な累積計算方式によりこれを行なうこととしている。従つて無配当の株式等についてはその取得に要した借入金の利子の金額を、また有配当の株式等であつても控除する借入金の利子の額が受取配当の金額をこえる場合にそのこえる利子の額を他の銘柄の株式等から生ずる受取配当から控除することはできないのである。

右のとおり、本文の規定は株式等とその取得に要した借入金とが各銘柄別に個別的継続的に紐付関係にあることを前提としているものであつて、右両者が各銘柄別にその取得(借入)のときから消滅(返済)のときまで終始個別的対応関係にあることが具体的に明らかにされており、且つ支払う利子の額についても継続的に各銘柄別の株式等に正当に負担せしめられていて始めて本文の規定により控除する借入金の利子の額を算定することが可能となるのである。

のみならず、右の要件が厳格に守られないならば租税負担の公平をいちじるしく損うものであることは、例えば借入金で取得した固定資産の売却代金をもつて当該借入金を返済せず、株式(A)の取得に要した他の借入金の返済にあてた場合、或いは借入金によって取得した無配当の株式の売却代金をもつて当該借入金を返済せず、有配当の株式(B)の取得に要した他の借入金の返済にあてた場合に、それらの株式(A)(B)から生ずる受取配当には控除する借入金の利子の額はないものとしてその金額を益金不算入となることを想定すれば明らかである。

(二) 利益の配当等により受けた金額から控除する負債の利子額が明らかでないものがある場合(同条但書という)の計算方法の適用要件は次のとおりに解すべきである。

株式等とその取得に要した借入金とが所謂紐付関係にあることが明らかでない場合には右但書の規定によつて受取配当から控除する借入金の利子の額を計算することとなる。この場合、負債によつて取得した資産が株式であるのか、または固定資産等の取得に要したものかどうかについて区分することができないから、当該負債の支払の利子については法人税法施行細則(昭和三六年大蔵省令第一三号による改正前のもの。以下細則という)第二条の六により計算することとなる。即ち、同条は、当該事業年度において会社が支払うすべての利子の額(特定利子を除く)に総資産の帳簿価格(特定利子の元本たる負債の額他所定のものを除く)のうちに株式等の帳簿価格の占める割合を乗じて計算する、いわゆる按分計算方式を定めている。

これは、会社が有する全ての資産は自己資本と借入金との混然一体となつた資金によつて調達されたものであつて、全ての借入金は株式等の取得に関し他の資産の取得の場合と同程度に関連性があるとの合理的な考えに基づくものである。

(三) ところで、受取配当の元本たる株式等を取得するために要した借入金の利子の額の一部について受取配当から控除するものが明らかでない場合には、全部の受取配当について右但書の規定により受取配当から控除する借入金の利子の額を計算することとなる。これは、右但書及び細則第二条の六により明らかである。

即ち、右各規定は計算の基礎となつた支払利子の額から右規則本文に定める計算の基礎となるべき利子の額を控除することとなつておらず(右利子の額は細則同条第二項の特定利子にも該当しない)また総資産及び株式等の帳簿価額から右本文に定める計算の基礎となるべき株式等の帳簿価額を控除することとなつておらず支払利子の全ての額について全ての株式等の帳簿価額とその他の資産の帳簿価額とに按分計算することと定めているのである。

従つて、規則第一八条の五は受取配当から控除する借入金の利子額の全部について、紐付計算ができる場合に右本文を、そうでない場合には右但書を、そのいずれかを適用することとしているのであつて、本文と但書との併合適用は認めていないと解すべきである。

(四) 凡そ、法人がある事業を営む場合は、その必要な資金を自己資本若しくは他からの導入資本等によつて賄うのが通常である。而してその取得が負債による場合にはそのように経理処理されるが、その場合において資産の出所について源泉を遡つて探究し、個別的に資産の取得の状況と調達された資金との関係を内容的に分類することは繁雑であるばかりでなく非実際的であるといえよう。このことは、法人の有する全ての資産が自己資本と他人資本との混合一体となつた営業資金によつて構成され、またこれをもとで(資本)として運営されている実情に着目すれば、取得資産と借入資金との関係を明らかにすることは不自然といえるからである。

従つて、法人の有する資産の取得状況を資金の流通過程で捉えることは現実に即しない課題であり、国税庁長官通達(昭和三三年一一月一〇日付直法一-二〇四記第一の二、七)に従つて、原告の取得した株式の元本たる負債の使途について明らかでないと被告は認めたのであり実際的合理的なものである。

(五) 現に原告の設立(昭和三〇年一〇月)以降の各事業年度の貸借対照表によれば、原告の借入多額は金額且つひんぱんに行なわれており、経理の内容も極めて複雑であり、画一的に資産負債の状況から営業資金の流動内容を遂一即断できるような単純なものでない。

仮りに借入金と株式取得の関係が原告主張の別紙第五表(二)のような対応関係にあるとしても、これは単に株式取得当日の事実または一時点における財産計算のための静的状態を表わしたものにすぎない。そこで、右の関係を積極的に明確にするためには、原告備付の伝票及び関係商業帳簿等を設立当初に遡及し、その記載順を追つて検索し、相手勘定の動きを確認したのち判断されねばならないのである。

(六) 昭和三七年改正の規則第一八条の五ただし書についての原告の解釈に対する被告の反論は別紙二のとおりである。

三、原告は利益配当の益金不算入額の計算のうち、利益配当から控除する負債の利子額につき本文の規定を適用したものである。

(一) 争う。

三、被告は利益配当の益金不算入額の計算のうち、利益配当から控除する負債の利子額につき、但書の規定を適用したものである。

即ち、右但書によると別紙第一表(被告計上額欄8)及び第二表記載のとおり利益配当の益金不算入の金額は金一九八万三、一六二円となるべきものであり、原告はその金額を金一、一四一万九、一三一円と過大に申告したのであるからその差額金九四三万五、九六九円を所得に加算することとした。

よつて、被告のした計算は適法である。

四、原告の計算

原告は近代簿記システムによる帳簿組織を備え、総勘定元帳を基礎として、補助帳簿として銀行勘定簿、預金元帳、貸付金借入金元帳、有価証券元帳、借入金使途明細簿(銀行別)、経費明細簿を備え付け、その勘定現象を生じた日付の順に従い、遂一具体的にその記帳をしているものであつて、原告の経理現象はたやすく把握できる。

別紙第六表は別紙第三表(A)(B)欄の記載と原告の帳簿との記載関係を、

別紙第七表(一)の至(三)は別紙第三表(D)欄の記載と原告の帳簿との記載関係を、

別紙第八表(一)(二)は別紙第三表(C)欄の記載と原告の帳簿との記載関係を明らかにしたものである。

(一) 原告の受取配当金の非課税額計算

原告の本件事業年度に受けた利益配当は別紙第四表記載のとおり金二、一三九万〇、一二二円である。その内同表6ないし14の配当金の額は金一一五万九八九七円となるがこれらの基礎となるべき株式は何れも原告の自己資金により取得したものであるからその全額について原告の所得から除外されるものとなる。

而して1乃至5の利益配当金の基礎となるべき株式の取得は何れも銀行からの借入金によつてなされたもので原告の帳簿上具体的に明瞭なものである。

その具体的内容は別紙第三表記載のとおりである。そして差引非課税配当金は同表(E)欄記載のとおりであり、その合計額金一、一四一万九、一三一円が別紙第一表原告計上額欄8の「利益の配当等の金額」に該当し、その金額が原告の所得から税務経理上控除さるべきものなのである。

(二) 原告の本件事業年度の所得金額は別紙第一表原告計上額欄記載のとおりであつて結局零となる。そしてこの場合は利益配当金に対して既に徴収された一割の源泉所得税は還付されることと)なる。

四、原告の計算に対する反論

原告においては、以下見るとおり、(イ)借入金の使途が個別的且つ具体的に明らかでないものがあり、(ロ)原告が紐付関係にあると主張される株式と借入金とが終始個別的に対応していないものがあり、(ハ)借入金の使途の他、借入金の返済資金の源泉(自己資金と借入金即ち他人資本の別)が明らかでないものがあり、規則第一八条の五本文の適用を受ける余地はないものである。

(一)一借入金No.1関係(以下別紙第三表記載の順序に基づきその借入金につき反論する。従つてここにいうNo.は同表に付記されている番号に従つたものである)。

原告の借入金使途明細帳(三井銀行船場支店)によると、原告は原告が本借入金で取得したとされる大糖株式一〇万株及び中央紡績株式(以下中紡株式という)一五万株の売却代金により本借入金を返済していない。即ち、原告は昭和三五年二月一日中紡株式一五万株を金一、三八〇万円で売却し、大糖からの借入金(昭和三三年一一月一〇日帝塚山家屋取得のための借入金)一、〇〇〇万円の返済に充て、また昭和三七年八月二〇日大糖株式四万株を金六二〇万円で、同月二七日同社株式六万株を金一、〇〇〇万円で各売却しているが、本借入金の返済に充てていない。

(二) 借入金No.2関係

原告の借入金使途明細帳(三井銀行船場支店)によると、原告は本借入金で取得した大糖株式二六万株のうち四万株を昭和三七年八月二七日金六四五万四、〇〇〇円で売却しているが、その売却代金により本借入金を返済していない。

(三) 借入金No.3関係

原告の借入金使途明細帳(第一銀行船場支店)によると、原告は本借入金一、八〇〇〇万円は昭和三一年六月二三日第一銀行から借入し、その使途は同日大糖株式一〇万株金一、八八四万円の取得に充てたとされる。

右借入金は原告の第一、二期銀行勘定帳によると、同日同銀行の当座預金に入金されており、その入金前後の預金の動きはつぎのとおりである。

〈省略〉

〈省略〉

右表から判るとおり、同表(5)の株式買入れの資金となり得るのは同表(2)即ち前日よりの繰越金一〇三万九、五七〇円と、同表(3)の本借入金及び同表(6)の振替入金である。ところで同日この預金から支出されたものは同表(4)(5)であるから大糖株式の買入代金が果してこの借入金から支払われたのか否か明らかではない。

のみならず、原告の借入金使途明細帳(三井銀行船場支店)によると、原告は原告が本借入金で取得したとされる大糖株式一〇万株を売却しているが、その売却代金により本借入金を返済していない。即ち、原告は昭和三四年二月六日右株式のうち三万株を金七六三万八、三〇〇円で、同月一〇日六万株を金一、五五三万四、〇〇〇円で各売却しているのに、原告は本借入金の返済は同年三月一〇日第一銀行から借入れた金三、七五〇万円により取得した大糖株式一五万株のうち一〇万株を同年四月三日金二、五六九万一、一五〇円で売却した資金の一部によつたというのであるから、原告が右表(5)の株式の売却代金で本件借入金の返済をしていないことは明らかである。

(四) 借入金No.4関係

原告の借入金使途明細帳(第一銀行船場支店)によると、原告は原告が本借入金で取得したとする中紡株式一五万株を昭和三四年九月二九日金九七二万〇、一五〇円で売却しているが、本借入金を返済していない。

なお、原告は右売却代金を同月三〇日に、同月一九日第一銀行より借入れた金二、二五〇万円の残金一、二五〇万円の返済に充てたというが、右売却代金は同月二九日同銀行の当座預金に入金されており、同日にはその他大糖からの借入金一、二五〇万円等の入金もあり、右金一、二五〇万円の返済が果してどの部分から充てられたか不明である。

(五) 借入金No.5関係

原告の借入金使途明細帳(第一銀行船場支店)によると、原告は原告が本借入金で取得したとする大糖株式三四万九〇〇〇株のうち三三万一、〇〇〇株を金三、六七二万〇、一二〇円で売却しているが、本借入金の返済に充てていない。

即ち、原告は昭和三四年二月五日一万一、〇〇〇株を金二七六万〇、一二〇円で売却し、その売却代金を同日第一銀行普通預金に入金しているが、その使途は明らかでない。また原告は、昭和三七年五月二五日二万株を金二九六万円で、同年八日一三日二〇万株を金三、一〇〇万円で各売却しているが、この売却代金も本借入金の返済に充てていない。

(六) 借入金No.6関係

原告の借入金使途明細帳(雑)によると、原告は昭和三二年七月一七日と翌一八日埼玉銀行から金一、〇〇〇万円の借入をし、大糖株式五万株を取得し、その後昭和三三年四月二三日大糖から金一、五〇〇万円を借入れ、これを以て同銀行の前期借入金を返済したとするが、原告は埼玉銀行から昭和三二年七月一六日金一、〇〇〇万円、同月一七日金五〇〇万円、同月一八日金五〇〇万円を各借入し、この使途は同日大糖株式五万株金一、一五〇万円他多くの支出に充てたことになつている。

原告の借入金使途明細帳(大阪製糖株式会社)。同(雑)によると、原告は昭和三三年四月二三日に大糖からの借入金一、五〇〇万円及び埼玉銀行の通知預金解約金五〇〇万円を右埼玉銀行から昭和三二年七月一六日、一七日、一八日、借入れた合計金二、〇〇〇万円の返済に充てているとし、右大糖からの借入金一、五〇〇万円は埼玉銀行からの借入金の一部について肩代りをしたものであるから、本借入金は前記大糖株式五万株と紐付関係にあるとされるのであるが、仮りに右肩代りが事実であるとしても、埼玉銀行からの借入金と右大糖株式とが前述のとおり紐付関係にない以上、肩代り債務と大糖株式とが紐付関係にないのは当然である。

(七) 借入金No.7関係

原告の借入金使途明細帳(三井銀行船場支店)によると、原告は本借入金五〇〇万円は昭和三一年一月一七日三井銀行から借入し、その使途は同日当該借入金利息六万九、〇〇〇円、同月二七日大洋物産株式五万七、〇〇〇株金四五六万円及び同月二八日から二月二二日までの三井銀行借入金利息金三七万一、〇〇〇円の各支出に充てたとされる。

そこで、右借入金が入金された三井銀行当座預金の動きを原告の第一、二期銀行勘定帳によつてみるとつぎのようになる。

〈省略〉

〈省略〉

印は本借入金の原告主張による使途を示す。

×印は借入金No.10の原告主張による使途を示す。

右預金の動きからみて、右表(3)の株式取得代金は同表(1)の繰越金と同表(2)の本借入金の内金四三八万五、七五〇円とで充てられたとみることもできる。従つて本借入金の使途についての原告の主張は恣意的であるといわなければならない。

(八) 借入金No.8の関係

原告の借入金使途明細帳(三井銀行船場支店)によると、原告は本借入金五〇〇万円は昭和三一年一月三〇日三井銀行から借入し、その使途は同月三一日大洋物産仮受金の返済に金一〇一万七、七四〇円及び同社株式取得に金四〇〇万円充てたとされる。

(1) しかし、被告の前(七)項の表のとおり同表(6)の残高金五四〇万〇、三五〇円の中には前日からの繰越金をも含んでいるとみられるから同表(7)(8)の支払が本借入金のみから支払われたと断定することはできない。原告のみかたによると昭和三一年一月三〇日の残高は同表(1)の繰越金一七万四、二五〇円。借入金No.9の残金二二万六、一〇〇円、本借入金五〇〇万円(同表(5))からなるものとされ、繰越金及びNo.9の借入金残は同表(7)(8)の支出に充てられず、そのまま残るとし、借入金No.7で本借入金の利息を支払つたとみるのであり不合理な点が多い。

(2) また本借入金で取得したとされる同表(8)の株式五万株は昭和三一年二月二九日一万株を金一一九万八、二〇〇円で、同年七月三日二万二、〇〇〇株を金三七三万四、三九〇円で各売却しているのに、この売却代金は本借入金の返済に充てられていない。即ち、二月二九日売却した代金は三井銀行の当座預金に同日入金され、七月三日売却した代金は同銀行の普通預金に入金されているが、いずれもその使途は明らかでない。

(九) 借入金No.9関係

原告の借入金使途明細帳(三井銀行船場支店)によると原告は本借入金一、五〇〇万円のうち金一、二五〇万円を昭和三四年四月七日返済しているとし、この返済資金は同年三月一〇日三井銀行借入金二、五〇〇万円により取得した大糖株式一〇万株のうち同年四月六日売却した五万株の売却代金一、二七四万五、七二五円から充てているとされる。なるほど、右売却代金が同日三井銀行の当座預金に入金されていることは、事実であるがその使途は明らかでない。

仮りに右売却代金により本借入金を返済したとしても、紐付借入金を借入残高があるにもかかわらず返済していないのであるから、そのことは昭和三四年三月一〇日三井銀行借入金と当該借入金で取得したといわれる大糖株式一〇万株とは紐付関係がなく、従つて当該借入金の使途が明らかでないことになる。

(十) 借入金No.10の関係

原告の借入金使途明細帳(第一銀行船場支店)によると、原告は本借入金一、五〇〇万円を昭和三四年四月七日金一、二一〇万円、同月二七日金二九〇万円宛返済しているとし、四月七日返済分は同年三月一〇日三井銀行からの借入金二、五〇〇万円により取得した大糖株式一〇万株のうち同年四月六日売却した五万株売却代金一、二七四万五、七二五円から充てているとされる。しかし、右売却代金は第一銀行の当座預金に同日入金されているもののその使途は明らかでない。また原告四月二七日返済分は昭和三二年九月二八日大糖からの借入金一、五〇〇万円等で設定した通知定期預金三〇〇万円を昭和三四年四月二七日解約し、この金を充てたものであるとされる。しかし、右解約による資金は同日第一銀行の当座預金に入金されているもののこれまたその使途は明らかでない。

仮りに、右原告の主張のとおりであるとしても、そのことは昭和三四年三月一〇日三井銀行借入金については前(九)項記載と同様紐付借入金を返済していないのであるから当該借入金の使途が明らかではないことになる。

(十一) 借入金No.11関係

(1) 原告の借入金使途明細帳(大阪製糖株式会社)によると、原告は本借入金一、〇〇〇万円は昭和三四年六月一九日第一銀行から借入し、同日大洋物産株式一五万株一、〇五〇万円取得分と紐付関係にあるとされている。

しかし、つぎのとおり第一銀行の当座預金の動きをみても、本借入金の使途は明らかでない。

〈省略〉

印は本借入金使途明細帳による使途を示す。

右によつて明らかなとおり、原告はここでは繰越金が最も早い支出に充てられたとする見方によつており、他の場合の借入関係の使途についての見方と全く別の見方をしている。このように原告の資金の使途についての主張は恣意的に金額を結びつけた結果を基礎とするもので合理性を欠く。

(2) 仮りに本借入金が右表(9)の内金二六四万二、一〇二円に充てられ、当該通知預金を同年一一月二六日解約し、その資金により大糖株式を取得したとしても、原告は昭和三五年一月七日この株式を二六九万八、九〇〇円で売却しているのに、この売却代金をもつて本借入金を返済していないので、本件が紐付関係にあるということはできない。

(十二) 借入金No.13関係

原告の借入金明細帳(第一銀行船場支店)によると、原告は本借入金一、二六〇万円のうち金一〇万円を昭和三四年四月二七日に、金二〇〇万円を同年五月一九日に各返済しているし、四月二七日の返済資金は、昭和三二年九月二八日大糖からの借入金一、五〇〇万円の一部により設定した通知定期預金三〇〇万円(借入金No.10関係と同じ預金)を昭和三四年四月二七日解約してこの資金を充てた旨、また五月一九日の返済資金は自己資金により設定した定期預金を同日解約してこの資金を充てたとされる。

しかし、四月二七日の解約資金は第一銀行の当座預金に入金されているものの、その使途は明らかでなく、また五月一九日の定期預金解約資金はその定期預金が果して自己資金からなるものか否か明らかでない。

従つて右返済資金の源泉は明らかでないというべく、本件も紐付関係はないといわなければならない。

(十三) 借入金No.14関係

(1) 原告の借入金使途明細帳(三井銀行船場支店)によれば、原告は本借入金二〇〇万円は昭和三〇年一〇月二六日に三井銀行船場支店(以下三井銀行という)から借入し、その使途は同年一一月四日に福谷商店株式二万五、〇〇〇株、金一六二万五、〇〇〇円のうちの金一二七万五、〇〇〇円、、太洋物産株式金三二万五、〇〇〇円、本借入金利息二万七、六〇〇円、その他経費金一六万四、四〇〇円、同年一一月三〇日に大阪製糖(以下大糖という)株式一、三〇〇株、金二〇万八、〇〇〇円の各支出に充てたとされている。

しかし、このように借入金がおおくの支出と対応し、借入金と支出とが金額が同額でないため具体的に個別に結びつかない場合においては、その借入金とその支出は所謂紐付関係にあるといえない。

原告の第一、二期銀行勘定帳によると、本借入金は利息を差引き金一九七万二、四〇〇円が三井銀行の当座預金に入金され、同年一一月四日に福谷商店株式金一二七万五、〇〇〇円及び太洋物産株式金三二万五、〇〇〇円の支出に充てられ、その残高は金三七万二、四〇〇円となつている。そして、その後一一月三〇日までの預金の出入りはつぎのようになつている。

〈省略〉

〈省略〉

原告は右表(1)の残高は同表(4)の大糖株式取得資金の一部に充てたとされるが、右預金の動きから判るとおり、これは同表(2)の大糖株式取得資金の一部に充てられており同表(4)の大糖株式取得資金は同表(3)の普通預金振替入金分から一部充てられているともみられるのである。

また、原告は同表(3)の振替入金分は同表(4)の大糖株式取得に充てられたとされているが、同表(2)の株式取得は同表(1)の繰越金から一部なされたものか、同表(3)の振替入金分から全部なされたものかは、明らかではない。

(2) また原告は昭和三一年一二月二七日大糖株式一、三〇〇株、金二〇万八、〇〇〇円を含み同社株三万株を金七八一万八、二五五円で大井証券に売却しているがこの売却代金は第一銀行船場支店(以下第一銀行という)の当座預金に入金され本借入金の返済に充てられておらず、しかもその使途も明らかではない。

(3) また原告は昭和三一年一二月二七日大糖株式一、三〇〇株、金二〇万八、〇〇〇円を含み同社株三万株を金七八一万八、二五五円で大井証券に売却しているが、この売却代金は第一銀行船場支店(以下第一銀行という)の当座預金に入金され、本借入金の返済に充てられておらず、しかもその使途も明らかではない。

(十四) 借入金No.15関係

原告の第一、二期銀行勘定帳、借入金使途明細帳(第一銀行船場支店)によると、本借入金二〇〇万円は昭和三〇年一〇月二五日に第一銀行から借入し、その使途は同日当該借入金利息金二万七、六〇〇円、同月二六日会社設立登録税及び設立費用金四五万円、一一月四日福谷商店株式二万五、〇〇〇株、金一六二万五、〇〇〇円のうち金一三二万五、〇〇〇円、会社印鑑及び会社表札作製金三、六〇〇円、一一月一二日大糖株式一、二〇〇株、金一九万三、八〇〇円の各支出に充てたとされている。

しかし、一一月一二日の大糖株式一、二〇〇株の代金支払についてみると、同日における預金残高は赤残となるのであり(これは振出小切手が銀行渡りのため取立期間があり、実際上赤残ではないのであるが)、この時の買入代金七四万三、九〇〇円の小切手は一月一四日に普通預金から九〇万円振替入金されたことにより決算可能となるのであるから借入金No.14の使途についての原告の見解によれば、一一月一二日の大糖株式の取得資金は一一月一四日の普通預金入金から全額充てられたということにもなるのである。

このように資金運用上の観察は主観的にみれば、いろいろな見方ができるので、これを主観に委せると課税の公平が保てず幣害が生することになるので、客観的に紐付関係が明らかな場合、即ち借入金とその使途とが同日(直近日を含む)、且つ同額である場合に始めてその借入金の使途が個別的且つ具体的に明らかであるといえるのである。

のみならず、原告は昭和三一年一二月二七日大糖株式一、二〇〇株、金一九万三、八〇〇円を含み、同社株式を三万株、金七八一万八、二五五円で大井証券に売却しているが、この売却代金は第一銀行の当座預金に入金され、本借入金の返済に充てておらず、しかもその使途が明らかでない。

五、被告のなした本件更正の内容は別紙第一表のとおりである。なお、所得の計算上預金に算入する前五年以内の欠損金について(別紙第一表11欄)補足説明する。

(一) 原告は損金に算入することのできる欠損を次のとおり計算している。

〈省略〉

(二) しかし、右(3)の事業年度には欠損金額はない(当該年度の所得金額は金一、六〇二、八二三円である。後表参照)から本件事業年度に損金に算入できる欠損金額は前表(1)(2)の事業年度に生じた欠損金額一二、八二五、八八一円から(3)の事業年度に生じた所得金額一、六〇二、八二三円を控除した残額一一、二二三、〇五八円である。

尚、前表(3)の事業年度の所得金額の計算はつぎのとおりである。

〈省略〉

丙  証拠関係

(原告)

(被告)

一、提出書証

(一) 被告が認めたもの。

甲第一ないし第五号証、同第六号証の一ないし一二、同第七号証の一ないし五、同第八号証の一ないし三、同第九号証の一ないし八、同第一〇号証の一ないし四、同第一一号証の一ないし三、同第一二号証の一ないし一〇、同第一三号証の一ないし八、同第一四号証の一ないし八、同第一五号証の一ないし三、同第一六号証の一、二、同第一七号証の一ないし四、同第一八号証の一ないし八、同第一九号証の一ないし四、同第二〇号証の一ないし三、同第二一号証の一、二。

(二) 被告が不知のもの

同第二二号証の一ないし七。

一、提出書証

(一) 原告が認めたもの。

乙第一号証、同第二号証の一ないし四、同第三号証の一ないし七、同第四号証の一、二、同第五号証の一、二。

二、証人

吉田義雄、伊藤常治

理由

第一、争のない事実

一、原告の請求原因中第一の一ないし四の事実は当事者間に争いがない。

二、また別紙第一表に掲げる本件更正処分の内容中1ないし7および9ないし11の事実(被告計上額)については、原告は明らかに争わない。

第二、本件の争点

本件において問題となるのは、原告の本件事業年度にかかる利益の配当等の益金不算入の計算に当り利益配当等から控除する負債の利子額の計算方法である。これについて原告は規則第一八条の五本文(以下本文という)を適用すべきであると主張するのに対し、被告は同条ただしがき(以下但書という)を適用すべきであると主張する。そして原告は被告が本件において右計算方式について全面的に但書を適用したのは違法であると主張するのである。

原告はこの点につき、株式の取得と借入金との関係が全部具体的に明瞭である。かりに部分的に右関係が明瞭でないものがあるとしても、その部分についてだけ但書を適用すべきであると主張するのであるが右争点の前提は右規則についての解釈問題にあるので、先づ、この点について以下検討する。

一、規則第一八条の五の本文と但書の関係

法人税法第九条の六第一項(昭和三三年法律第四〇号による改正後のもの)は内同法人(以下単に法人という)からうける利益配当等の益金の不算入の原則を規定すると共に株式等の取得に要した負債の利子額を右配当等により受けた金額より控除する旨を規定し、その控除すべき利子額の計算方法を「命令の定めるところ」に委せている。そして規則一八条の五(昭和三三年政令第七〇号で追加)はこれを受けて右控除すべき株式等の取得に要した負債の利子額の計算方法について規定し、その本文は、その計算方法を当該事業年度において利益の配当を受けるいわゆる有配当の株式等についてこれを取得した日から右株式等の配当期間の末日までの期間内に支払う当該利益の配当等の元本たる株式等の取得のために要した負債の利子額の合計額から当該事業の年度前の各事業年度において法九条の六第一項の規定により控除された負債の利子の額の合計額を控除した金額とするとし、いわゆる個別的累積計算方式による旨規定(なお附則三項参照)、但書は「当該利益の配当等の元本たる株式等を取得するために要した負債の利子額で当該利益の配当等に因り受けた金額から控除するものが明かでないものがある場合には、大蔵省令の定めるところにより、法人の当該事業年度において支払う利子の額に、その有する総資産の帳簿価格のうちに株式等の帳簿価格の占める割合を乗じて計算した金額によるものとし、(いわゆる総体的按分方式)その細部については、「大蔵省令の定めるところ」に委ねている。そして細則第二条の六(昭和三三年大蔵省令第三四号で追加)は右但書をうけて総体的按分方式の細部について規定する。

(一)  本文の計算方式の適用要件

本文の規定は当該事業年度において利益の配当を受けるいわゆる有配当の株式等についてのみ控除する負債の利子の額を計算するものとしている。元来受取配当金からその元本たる株式等の取得に要した負債の利子の額を控除する趣旨は法人と個人との間に法人が介在することによつて生ずる個人の受取配当についての所得税と法人税との実質的な重複課税を排除することを前提とする税制のうえに立つて、しかもその法人について配当の元本たる株式等を取得するために要した負債の利子の額が本来の損金とともに実質的に重複して損金となることを排除して税負担の公平を図ろうとするところにあるのであつて、右本文は法人が支払う負債の利子の額をそれぞれの元本たる負債の使途に応じて配分し、受取配当の元本たる株式等の取得に要した負債の利子の額を当該受取配当に最も的確に負担させるべく、個別的累積紐付計算方式を採用している。

このことから、本文適用の要件として先づ〈1〉負債の使途が個別的、具体的に明らかであり、かつ、株式等とその取得に要した負債とかその取得(借入)から消滅(返済)まで終始個別的な対応関係にあることを要するものといわねばならない。(もつとも右消滅(返済)は法人税納税義務の成立時たる当該事業の年度の終る時までの時点において把えるべく、その後の変動を問いえないと解すべきであろう。)

次に、しからば本文の計算方式の適用の要件として受取配当等の元本たる株式等の取得に要した負債の利子について、その全部が上記〈1〉に該当することを要するか、それともその一部についてのみこれに該当することで足りるかについて検討しなければならない。この点について規則一八条の五の規定の全体をみるに、その冒頭に「法第九条の六第一項に規定する利益の配当等に因り受けた金額から控除する命令の定めるところにより計算した利子の額は」を配し、続けてさきに述べた本文の個別的累積計算方式を掲げ、次に「ただし、当該利益の配当等の元本たる株式等を取得するために要した負債の利子の額で、当該配当等に困り受けた金額から控除するものが明かでないものがある場合には」を配し、続けて前記のいわゆる総体的按分計算方式を掲げている。

すなわち、規則第一八条の五の規定はその構文上、本文および但書ともに同一の主語にかかるもので、「法九条の六第一項に規定する利益の配当等に因り受けた金額から控除する命令の定めるところにより計算した利子の額」は本文の場合と但書の場合とで各計算方式を書き分けているものと解せざるを得ない。

換言すれば、本文と但書とは、利益配当等の益金不算入額の計算方式として二者択一の関係にあるといえるので、あつて、一部でもその負債と株式等の取得とに紐付関係があることが明らかでないものがある場合には、(たとえ他の部分について紐付関係が明らかであるものがあつても)すべて但書の方式により計算することとなる。すなわち、但書は右のように総体的按分計算方式を規定したものであつて、部分的按分計算方式すなわち、「控除するものが明らかでないものがある場合には、当該利益の配当等により受けた金額から控除すべき当該明らかでない利子の額は」部分的按分計算による旨を規定したもの(例えば、その後昭和三七年の改正による規則一八条の五第一項ただし書はこのことを明記し、但書自体に部分的主語を設定し、それが部分的按分計算によることを規定し、これを受けて細則第二条の七は、このことを前提としその細目を規定する。)ではない。また、右但書にいわゆる「明らかでないものがある場合には」とは一部でも明らかでないものがある場合の意であること、文理上も明らかである。そして但書を右のように解すると、その反面本文は全部について紐付関係が明らかである場合の計算方式を規定したものと解すべきである。

そうだとすれば、本文の計算方式の適用要件としては、次に〈2〉受取配当等の元本たる株式等の取得に要した負債の利子の全部について上記〈1〉に該当することをあげなければならない。すなわち本文は但書該当を消極的要件とするものと解するを相当とする。

(二)  但書の計算方式

但書の計算方式は前記のようないわゆる総体的按分方式であるが、その細目については、細則の規定(第二条の六)に委ねている。そして細則は株式等の取得に要した負債の利子額を計算する場合における按分計算を(一)株式及び出資に係る部分の計算と(二)証券投資信託の受益証券に係る部分の計算とに分けて行うことにし、右(一)(二)の合計額とするものとし、(ただし、右(二)は本件において関係がない)、右(一)の計算において「支払う利子額」より「特定利子」を控除し、特定利子の元本たる負債の額を総資産の帳簿価額より控除し、これを按分の対象から除外するものとし、またその特定利子の範囲を法文上明確にする等細目の規定を設けている。

思うに、負債利子額控除の本質よりすれば、利益配当等と利子、ひいてはそれぞれの元本たる株式等とこれを取得するために要した負債とが個別的に具体的にかつ、継続的に対応しているかの実態をあくまで探索し、これによつて、その控除額を把握することが望ましいことは言うまでもない。しかしながら、企業経営の実情についてみるにおよそ法人がある事業を営む場合において、その事業経営に必要な資金を自己資本もしくは他人資本によつて賄い、むしろその両者が混在しているのが通例であり、またこれらの資金は事業経営に必要な資産に化体されて、自己資金と借入金とは混然一体となつて運用されているのが実情であり、このような実情のもとにおいて、個々の資産について、その取得に要した資金について、その出所を源泉に遡つてこれを探究し、その資金の入手とその資産の取得との関係を時期的に内容的に関連づけ分類することは全般的な会計処理の態勢よりみて企業自体にとつて先づ煩瑣であり至難であることは想像に難くない。そうだとすれば、但書および細則に定める計算方式が、当該事業年度について、特定利子にかかるものを除いたうえ法人の当該事業年度において支払うすべての利子の額にその有する総資産の帳簿価格のうちに株式等の帳簿価格の占める割合を乗じて計算した金額を、株式等の配当により受けた金額から控除すべき負債の利子の額とするものとしていることは、今日の企業経営並に会計処理の実情に即して合理性を有するものといわねばならない。

そしてこの種のいわゆる総体的按分計算方式の沿革について検討するに昭和三三年法律第四〇号による改正前の法人税法第九条の六においては、この種利子額を当該利益の配当等に因り受けた金額より控除する旨規定するにとどめ、その計算方式については何ら明示するところなく、専らその解釈運用にまかせられていたが、右改正により税負担の公平とその画一性を期するためにその計算方法を政令の定めるところに委ね、右規則第一八条の五においてこれを明確にしたものである。

元来右計算方式について、いかなるものを採用するかは、徴税の技術的な面と負担の公平からみた立法政策の問題であり、規則本文は累積紐付計算方式を、但書は総体的按分計算方式を採用したが、その後昭和三七年政令九五号による改正で右規則一八条の五第一項但書は部分的按分方式を採用し、その結果本文と但書は部分的に併用適用されるところとなつた。しかし、右改正は原告のいうように従前の規定の解釈を明確にしたものでなく、従前の政令を改めたものであることは、その明文上も、またその附則(昭和三七年政令第九号)五項(経過規定)からみても明らかである。右のように総体的按分方式は昭和三七年の改正により部分的按分方式に改められたが、更にその後昭和四〇年改正の法人税法(現行法)において、個別的累積紐付計算方式は全面的に廃止された総体的按分方式のみが採用されるに至つた。(法二三条施行令二二条参照)。

原告は、被告が国税庁長官通達(昭和三三年一一月二〇日付直法一―二〇)に従う被告の見解は実際的合理的であるとする点を把え、国税当局による法意の曲解であるとするかのようであるが、右原告の見解は独自の見解に立脚するもので採用の限りではないもとより通達は行政庁間の事務取扱いについての指針ないし基準をなすもので、それが租税法の解釈に関するものであつても、租税法の解釈適用に当る行政庁としてその解釈が区々に分れ、取扱いの不統一の生ずることのないように発せられるもので、それ自体法規として国民を拘束する性質を有するものではないが、それが法の正当な解釈に一致するものである限り、その通達に従つた処分は適法といわねばならない。そして右通達は前示法規の解釈に一致し、これと何ら抵触するところがないから、これを法意の曲解とする前提に立つ原告の批判は当らない。

第三、原告の株式取得に要した負債の内容。

原告は、原告会社の事業目的は株式の保有投資及びビルの賃貸借を主とするものであつて、その経理は他の事業に比べて極めて簡素かつ、単純であるから、その借入金の使途は明瞭かつ個別的に区分整理が可能な状態にあり、従つて、株式取得に要した借入金利息も、その個々のものについて具体的に紐付計算が可能である旨主張するのに対し、被告は、原告の事案目的は原告主張のとおりであるが、だからといつて画一的に資産、負債の状況から営業資金の流動内容を遂一即断できるような単純なものではなく、仮りに原告主張のように借入金と株式取得の関係がいわれるように対応関係にあるとしても、これは単に株式取得当日の事実(または一時点における財産計算のための静的状態)を表わしたものに過ぎない旨主張するので、以下この点について検討する。

一、原告会社の負債について別紙第三表記載の順序により判断する。

(一)  紐付関係の明らかなもの。

(1) 借入金No.1関係

成立に争いのない甲第一三号証の七、第九号証の八によれば、原告は昭和三一年九月二五日三井銀行船場支店から金二、六七五万円を借入れ、内金一、七〇〇万円で同日大阪製糖株式(以下大糖株式という)一〇万株を取得し、本件事業年度の終りまでこれを保持していることが認められ、これに反する証拠はない。

被告は右借入金を右株式及び右借入金の残余金で取得したとされる中央紡績株式一五万株の売却代金により返済していないから紐付関係にないと主張するが、右売却の事実は中央紡績株式の売却は昭和三五年二月一日、大糖株式のそれは同年同月二七日のことで、いずれも本件事業年度より後のことであるので理由がない。

(2) 借入金No.2関係

成立に争いのない甲第一三号証の八、第七号証の三によれば、原告は昭和三三年一一月二〇日三井銀行船場支店から金一、三〇〇万円を借入れ、同日右借入金で大糖株式二六万株を取得し、本件事業年度の終りまでこれを保持していることが認められ、これに反する証拠はない。

被告は右借入金を右株式の売却代金により返済していないから紐付関係にないと主張するが、右売却の事実は昭和三七年八月二七日のことで本件事業年度より後のことであるので理由がない。

(3) 借入金No.12関係

成立に争いのない甲第一三号証の五によれば、原告は昭和三一年七月四日三井銀行船場支店から金一、二六〇万円を借入れ、同日右借入金で第一銀行株式二〇万株を取得し、本件事業年度の終りまで、これを保持していることが認められ、これに反する証拠はない。

(二)  紐付関係の明らかでないもの。

(1) 借入金No.3関係

成立に争いのない甲第一四号証の三によれば、原告は昭和三一年六月二三日第一銀行船場支店から金一、八〇〇万円を借入れたこと、同日大糖株式一〇万株を金一、八八四万円で取得していることが認められるけれども、他方成立に争のない甲第九号証の三によれば右借入金の他同月二〇日東京ビル貸室敷金の入金が金一〇〇万円、同月二三日普通預金振替入金三〇万円があることが認められるので、結局右株式の取得がこれら入金のいずれによつたものであるか判然とし難いのみならず、前揚甲第一四号証の三によれば右株式の内、昭和三四年二月六日三万株、同月一〇日六万株を各売却しているが、これを以て右株式の一〇万株の取得に要した借入金とされる金一、八〇〇万円の返済に充てていないことが認められる。よつて、借入金No.3と右大糖株式一〇万株とは紐付関係にはないといわなければならない。

(2) 借入金No.4関係

成立に争いのない甲第一四号証の六によれば、原告は昭和三一年九月二五日第一銀行船場支店より金二、六七五万円を借入れ、同日中央紡績株式一五万株を金九七五万円で、大糖株式一〇万株を金一、七〇〇万円で各取得したことが認められるけれども、更に同証拠によれば同月二八日右借入金の返済として、(イ)同月一九日第一銀行より借入れた金二、二五〇万円により取得した中央紡績株式売却代金一、六二〇万円の内金六二〇万円と、(ロ)昭和三一年六月二三日同銀行より借入れた金一、八〇〇万円により取得した同会社株式売却代金一九四万四、〇〇〇円と、(ハ)自己資金により取得した同会社株式二万株売却代金一二九万六、〇〇〇円と、(ニ)自己資金充当分金五六万円とでこれに充てたことが認められ、右大糖株式一〇万株の売却代金で返済していないので、既に昭和三一年九月二八日を以て借入金No.4と右大糖株式一〇万株との紐付関係はなくなつたといわなければならない。

(3) 借入金No.5関係

成立に争のない甲第一四号証の七、乙第三号証の六によれば、原告は昭和三三年一一月二〇日第一銀行船場支店より金一、七四五万円を借入れ、同年一二月一日大糖株式三四万九、〇〇〇株を取得したが、内一万一、〇〇〇株を昭和三四年二月五日金二七六万一二〇円で売却し、これを同日同銀行普通預金に入金していることが認められ、右売却株一万一、〇〇〇株についてはその使途が右借入金に充てられたという証拠がないので、右借入金との紐付関係は明らかでなく、従つてこのような場合累積控除の計算ができないので、借入金No.5と右大糖株式三四万九、〇〇〇株は全体として紐付関係が明らかでないものといわざるを得ない。

(4) 借入金No.6関係

原告は昭和三三年四月二三日大糖から金一、五〇〇万円を借入れ、同日同会社株式五万株を金一、〇〇〇万円で取得したと主張するが、そのような事実は認められない。却つて成立に争のない甲第一五号証の二、同第一六号証の二によれば、むしろ原告は埼玉銀行大阪支店から、大糖株式取得その他の目的で昭和三二年七月一六日金一、〇〇〇万円、同月一七日金五〇〇万円、同月一八日金五〇〇万円を各借入れ、右各借入金のうちから同月一八日の大糖株式五万株の買入代金一、一五〇万円を充てたほか、数回にわたり計金二三七万四、九〇〇円を費して数銘柄の株式取得に充てた他、残余分金六一二万五、一〇〇円を通知預金振替等多くの使途に充てていることが認められるので、たとえ右大糖からの借入金一、五〇〇万円が、右埼玉銀行からの借入金の一部について肩代りされたとしても、このような借入金と大糖株式とは紐付関係が判然としないものであるといわなければならない。

(5) 借入金No.7関係

成立に争のない甲第一三号証の三によれば、原告は昭和三一年一月一六日三井銀行船場支店から金五〇〇万円を借入れ、同日太洋物産株式五万七、〇〇〇株を右借入金の内金四五六万円で取得していることが認められるけれども、他方同証拠によれば右株式の売却代金を以て右借入金を返済することなく、同年六月二三日第一銀行よりの借入金で取得した中央紡績株式七万八、〇〇〇株を昭和三四年一〇月二日と三日各売却し、右売却代金五〇〇万円で返済していることが認められる。よつて借入金No.7と太洋物産株式五万七、〇〇〇株とは紐付関係にないといわなければならない。

(6) 借入金No.8関係

成立に争のない甲第一三号証の四によれば原告は昭和三一年一月三〇日三井銀行船場支店から金五〇〇万円を借入れ、同日太洋物産株式五万株を右借入金の内金四〇〇万円で取得していることが認められるけれども、他方同証拠によれば、原告は同年二月二九日同株式の内一万株を金一一九万八、二〇〇円、同年七月三日同株式の内二万二、〇〇〇株を金三七三万四、三九〇円で各売却しているが、これら株式の売却代金を以て右借入金を返済することなく、同年六月二三日第一銀行よりの借入金で取得した中央紡績株式二万九、五〇〇株を昭和三四年一〇月二日と三日合計金一九一万一、六〇〇円で、また自己資金で取得した同株式二万株を金一二九万六、〇〇〇円で各売却し、これら売却代金と自己資金充当分金一七九万二、四〇〇円で返済していることが認められる。よつて借入金No.8と右太洋物産株式五万株とは紐付関係にないといわなければならない。

(7) 借入金No.9関係

成立に争のない甲第一三号証の六によれば、原告は昭和三一年九月二〇日三井銀行船場支店から金一、五〇〇万円を借入れ、同日太洋物産株式三〇万株を取得していることが認められるけれども、他方同証拠によれば、右借入金を原告は昭和三四年三月一〇日三井銀行よりの借入金で取得した大糖株式五万株の売却代金一、二七四万五、五〇〇円の内金一、二五〇万円で同年四月七日返済していることが認められる。よつて借入金No.9と右太洋物産株式三〇万株とは紐付関係にないといわなければならない。

(8) 借入金No.10関係

成立に争のない甲第一四号証の五によれば、原告は昭和三一年九月二〇日第一銀行船場支店から金一、五〇〇万円を借入れ、同日太洋物産株式三〇万株を取得していることが認められるけれども、他方同証拠によれば、右借入金を原告は昭和三四年三月一〇日三井銀行よりの借入金で取得した大糖株式五万株の売却代金一、二七四万五、五〇〇円の内金一、二一〇万円と、昭和三二年九月二八日大糖からの借入金一、五〇〇万円で設定した通知(定期)預金三〇〇万円を昭和三四年四月二七日解約し、この金とで返済していることが認められる。よつて借入金No.10と右太洋物産株式とは紐付関係にないといわなければならない。

(9) 借入金No.11関係

成立に争のない甲第一五号証の三によれば、原告は昭和三四年六月一一日大糖から金一、〇〇〇万円を借入れ、同日太洋物産株式一五万株を取得していることが認められるけれども、他方同証拠によれば原告は右借入金を同年同月一九日第一銀行よりの借入金一、〇〇〇万円の内金五〇〇万円と、同日三井銀行よりの借入金一、〇〇〇万円の内金五〇〇万円とで返済していることが認められる。よつて借入金No.11と右太洋物産株式とは紐付関係にないといわなければならない。

(10) 借入金No.13関係

成立に争のない甲第一四号証の四によれば、原告は昭和三一年七月四日第一銀行船場支店から金一、二六〇万円を借入れ、同日右借入金から三井銀行株式二〇万株を取得していることが認められるけれども、他方同証拠によれば、原告は右借入金を昭和三二年九月二八日大糖よりの借入金一、五〇〇万円から設定した通知(定期)預金三〇〇万円を昭和三四年四月二七日解約し内金一〇万円と、自己資金により設定した定期預金二〇〇万円を同年五月一九日解約し、この金とで返済していることが認められる。よつて借入金No.13と右三井銀行株式とは紐付関係にないといわなければならない。

(11) 借入金No.14No.15関係

成立に争のない甲第一三号証の二、第一四号証の二によれば原告は昭和三〇年一〇月二五日第一銀行船場支店から金二〇〇万円を借入れたこと(借入金No.15)、同月二六日三井銀行船場支店から金二〇〇万円を借入れたこと(借入金No.14)が認められるけれども、他方同一証拠によれば右借入金合計四〇〇万円の内から金二六〇万円を費し、同年一一月四日福谷商店株式四万株を取得していることが認められるので、個別的かつ具体的に右各借入金のどの部分が右株式のどの特定株式と紐付関係にあるのか判明し難く、又前揚甲第一四号証の二によれば借入金No.15は昭和三一年六月二三日に第一銀行よりの借入金一、八〇〇万円により取得した大糖株式七、八〇〇株を売却した金一九八万五、九五八円で昭和三四年二月七日返済していることが認められる。よつて借入金No.14No.15と右福谷商店株式とは紐付関係にないといわなければならない。

二、以上判断したとおり借入金No.1No.2およびNo.12についてはその使途が個別的、具体的に明らかであり、かつ株式等とその取得に要した負債とがその取得(借入)から消滅(返済)まで終始個別的な対応関係にあることが認められるが、その余のものについては右のような関係が認められない。

三、そうだとすれば、原告会社の本件事業年度における利益の配当等に因り受けた金額から控除する当該利益の配当等の元本たる株式等を取得するために要した負債の利子額の計算については、さきに説示したところにより、全面的に但書が適用さるべく、本文の適用の余地はないこととなる。

第四、結論

一、以上により、右但書の計算方式により計算した原告会社本件事業年度における利益配当等に因り受けた金額から控除する当該利益の配当等の元本たる株式等を取得するために要した負債の利子の額は別紙第二表の計算のとおり(この計算の基礎たる各数額については原告において明らかに争わない)一、九四〇万六、九六〇円となるところ、原告会社が本件事業の年度において利益の配当等に因り受けた金額が二、一三九万〇、一二二円であることについては、当事者間に争がないから、利益の配当等に因り受けた金額で、益金不算入となる額は右差額たる一九八万三、一六二円となる。よつて、これを一、一四一万九、一三一円とする原告の計算に誤りがあるとし、これを右額として計上してなした本件更正処分並に過少申告加算税の賦課処分には何ら違法な点がない。

二、よつて原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 増田幸次郎 裁判官杉本昭一、裁判官宗哲朗は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 増田幸次郎)

別表一

利益配当等の益金不算入額を計算する場合の株式等取得に要した負債の利子の額の控除に関する政令一部改正

(昭和三七年四月一日以後終了する事業年度の法人税について適用、同日前に終了した年度分の法人税については従前の例による)

法人税法施行規則第一八条の五

〈1〉 (本文略)ただし、当該利益の配当等の元本たる株式等を取得するために要した負債の利子の額で当該利益の配当等に因り受けた金額から控除するものが明らかでないものがある場合には、「当該利益の配当等により受けた金額から控除すべき当該明らかでない利子の額は」大蔵省令の定めるところにより、法人の当該事業年度において支払う利子の額「(当該金額のうち前段の規定による計算の基礎となるものを除く)」にその有する総資産の帳簿価額のうちに株式等の帳簿価額の占める割合を乗じて計算した金額によるものとする。

「」は改正による挿入部分を示す。

〈2〉 省略

別紙二

昭和三七年改定の規則一八条の五についての原告の解釈に対する反論

(一) 規則第一八条の五及び細則第二条の六は昭和三七年度政令第九五号及び同年大蔵省令第二二号によりそれぞれ改正され、右規則本文と但書との併合適用が認められることとなつたが、右の改正規則ならびに改正細則は昭和三七年四月一日から適用されるものであつて、本件には適用されない。

(二) 右各改正は、紐付計算ができるものについては本文の適用があることとし、ただし書を適用するものからこれを除くこととし、按分計算方法も、支払利子並びに総資産の帳簿価額および株式等の帳簿価額の計算を詳細化したものである。この改正は、明らかに控除すべき負債の利子額の計算方法を改めたものであり、原告主張のように改正前の法改釈を明確化したというような性格のものではない。

(三) その後、さらに税法は体系化、平明化、簡素化が強く要請され、昭和四〇年法律第三四号により法人税法の全文改正が行なわれたが、この改正に際しては、さきに改正された問題の控除すべき負債の利子の計算規定は、その内容が複雑かつ難解に過ぎるとされ、いわゆる紐付計算方式を全面廃止し、按分計算方式一本に絞ることとされた。(右改正後の法人税法二三条、同法施行令二二条参照)

(四) 利益の配当等から控除する負債利子額をどのように計算するかは、以上に述べた民法改正の経過から判るとおり、必ずしも一定の計算方式でなければならないという理由はないのであり、計算方式をいかに定めるかは立法政策の問題に属するのである。昭和三三年の法改正は従来存在しなかつた計算規定を新設したものであり、昭和三七年の法改正はさきに新設された計算規定の内容を立法的に改めたものであり、また昭和四〇年の法改正は昭和三七年の法改正で改められた計算規定の内容を再度改めたものに過ぎないのである。したがつて昭和三七年の法改正のみを捉えこれを改正前の法解釈を明確化したものとする原告の主張は独自の見解と解するほかない。

第一表

〈省略〉

第二表

被告の計算根基

〈省略〉

第三表 受取配当金の非課税額計算書

昭和34年事業年度

〈省略〉

第四表

受けた利益の配当明細

34年事業年度

〈省略〉

第五表(一)

株式取得に要した借入金利息内訳

34年事業年度

〈省略〉

第五表(二) 株式取得に要した借入金利息の計算内訳書

〈省略〉

第六表 受取配当金の非課税額計算書(第三表)の(A)(B)欄の記載と原告の帳簿との記載関係

〈省略〉

第六表(二)

〈省略〉

注:引用してある甲号各証はいずれも原告の帳簿で

そのうち 甲第六号証は第1、2期元帳

甲第七号証は第4期元帳

甲第十二号証は第5、6期貸付金借入金元帳

甲第十九号証は有価証券元帳である

第七表(一)

〈省略〉

第七表(二)

〈省略〉

第七表(三)

〈省略〉

第八表(一) 受取配当金の非課額計算書(第三表)の(C)欄の記載と原告の帳簿との記載関係

〈省略〉

第八表(二)

〈省略〉

第八表(三)

〈省略〉

注:引用してある甲第八号証は原告の第五期元帳である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例